今回の旅では、珍しくANAの公式サイトから航空券を手配した。
予約管理画面を進め、機内食を選択するページを眺めていた時のことだ。これまでは特別食(児童用、あるいは糖尿病食やベジタリアンフードなど)の選択肢しかなかったと記憶していた場所に、見慣れない案内が目に留まった。
「ちょっと贅沢なお食事を2,500円よりご用意しています」
調べてみると、ANAが2019年春からプレミアムエコノミーおよびエコノミークラス向けに新設した、事前予約制の有料機内食サービス(日本発の欧米路線などが対象)であるらしい。
プレミアムエコノミー/エコノミークラスでの有料機内食メニュー新設
サービス開始日: 2019年4月開始予定
予約受付日: 出発時刻の24時間前まで ※深夜便など離陸後に軽食やドリンクのみを提供する便では不可。数に限りあり
対象クラス: プレミアムエコノミー/エコノミークラス
対象路線: 日本発の欧米路線(ホノルル線を除く)
価格: 2500円
また、ANAの国内線、国際線の機内食をプロデュースする「THE CONNOISSEURS(ザ・ コノシュアーズ)」のメンバーの意見を取り入れ、伝統的な和食器に加え、モダンタイプの食器を3月1日から新たに導入する。
ANA、国際線プレエコ/エコノミーの有料機内食メニューを新設。2500円
新しい試みにはつい手が伸びてしまう。通常のエコノミークラス運賃のままでも標準の機内食は提供されるのだが、あえて追加料金を支払い、その「一味違う体験」を試してみることにした。メニューは和食と洋食の2種類から選ぶことができ、今回は和食を選択した。
成田・羽田発の路線では、デザートに「ピエール・エルメ・パリ」とのコラボレーションメニューが用意されているという一文に、甘党としての期待が膨らむ。
通常、エコノミークラスの機内食はカートから順番に配膳されるが、有料機内食を注文する乗客が他にいなかったためか、私の席へは個別に、少し特別な手際で運ばれてきた。
トレイが届いた瞬間に、いつもとは明確に異なる気配を感じた。
まず、通常ならビニール袋に紙ナプキンと共に無造作に包まれているカトラリーが、この食事ではきちんと布製のナプキンに巻かれている。そして、その道具自体が実に上質なのだ。エコノミークラスで供される一般的なステンレスのカトラリーは薄く平面的で、どこか味気ない。スプーンもデザート用と小ぶりなものが兼用されていることが多い。しかし、このトレイに載せられたフォークやナイフは、地上のレストランのそれと遜色ないしっかりとした厚みと立体感を持っており、手にしっくりと馴染む。スプーンも用途に合わせて2本が静かに添えられていた。
メニュー表も、日本語と英語で刷られたものが丁寧に添えられている。
さらに、器がプラスチックではなく、白い磁器であった。底を返すとノリタケ製であることがわかる。器の側面を眺めると、繊細なしのぎ(縦の縞模様)が走っており、シャープで洗練された美しい佇まいを見せている。器が違うというだけで、食事の時間はこれほどまでに豊かになるものか、と改めて感銘を受けた。
楽しみにしていたピエール・エルメ監修のデザートは、「ヨーグルト・サティーヌ」であった。 オレンジとパッションフルーツのコンポート、パッションフルーツのクーリー、そしてゼリー状のオレンジを重ねたクリーミーなヨーグルトである。白い清廉なヨーグルトの下から、鮮やかなコンポートの層が顔を覗かせる二層の構造になっており、その緻密な味わいは実に見事だった。
メインの金目鯛の煮付けも十分に美味であったが、この空の上の食事を最も贅沢に演出していたのは、料理そのもの以上に「それを取り巻く道具」の力だったように思う。器が磁器であること、カトラリーに適度な重みがあること、そして指先に触れるナプキンが布であること。そうした細部の設えが、味覚の満足度を何倍にも引き上げていた。
エコノミークラスの座席で、あえて追加の料金を支払い、このトレイを選ぶ価値は十分にあると感じた。
ドリンク類に重きを置くプレミアムエコノミーの選択も悪くはないが、食事の質や器の佇まいはエコノミーの域を出ない。わずか2,500円でノリタケの磁器と立体的なカトラリー、そしてピエール・エルメの甘美な余韻が手に入るのであれば、それはプレミアムエコノミーの壁を飛び越え、ビジネスクラスの気配を掠め取るような愉しみと言えるだろう。単なる食事のアップグレードではなく、空の旅に自分だけの、豊かな「余白」を生み出すための実におもしろい選択肢だと言える。
参考:
有料機内食サービス(国際線):「ちょっと贅沢なお食事」時期ごとのメニューは予めANAのウェブサイトで見ることができる。出発空港によってメニューが異なるようだ。






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