アストル・ピアソラのタンゴが好きだ。
タンゴ、と口にすると、よく「黒猫のタンゴ」か、あるいは「社交ダンスのあの曲か」と訊ねられる。確かにそれらもタンゴの一種なのだろうが、私の好きなそれとは少し違う。実は私は社交ダンスのタンゴをよく知らない。
私が惹かれているのは、アルゼンチン・タンゴだ。インターネットで単に「タンゴ」と打つと、私の好みではないタンゴまで混ざって画面に現れる。誤解されるのが面倒くさいので、こうしてあらかじめ文字にしておきたい。ちなみに「アルゼンチン・タンゴ」で探すと、稀に藤原紀香や杉本彩の情熱的なダンスがヒットするのだが、それもまた私の好みとは異なる。
ピアソラの名を広く世に知らしめたのは、かつてサントリー・ローヤルのCMで流れた「リベルタンゴ」の張り詰めた旋律だろう。チェリストのヨーヨー・マが演奏したアルバム『プレイズ・ピアソラ』は、日本における一大ブームの発端だったという。一人の偉大な演奏家をきっかけに、閉ざされていたジャンルが急激にひらかれていく現象は、どの世界でも起こることなのだと感心した記憶がある。
もっと深く、ピアソラの、あるいはアルゼンチン・タンゴの盤を集めたいと思って、TSUTAYAなど街のCDショップを巡っても「タンゴ」の棚を見つけるのは容易ではない。オンラインで輸入盤を探そうにも、なかなか手の届かない高価なものだった。
それでも、今やインターネットの海には、同じひとつの名曲に対して、世界中のあらゆる演奏家が試みた無数のアレンジと音源が転がっている。有名な曲ほど、多様な解釈に出会えるのは本実に贅沢なことだ。かつて渇望していたあの音楽の世界が、いまは手元に十分すぎるほど広がっている。
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