あなたの職業はなんですか?

その質問には、少し前から「百姓です」と答えることにしている。アンケートや、会員証を作るときや、なんでこうもみんな職業なんて聞いてくるんだろう。自己紹介してなんでいちいち職業を聞くんだろう。「会社員」とか「公務員」とか、そんなのはせいぜいどこに雇われているか、誰から金を貰っているか、という程度のことなのに。そんな事聞いて何がわかるんだろう。そんな事聞いたってなんにも分かりはしないのに。だいいち「職業は〇〇です」なんて答えなければならないなんてつまらないだろうと思っている。

アンケートではできるだけ「その他」を選んでおく。でも「その他(  )」なんて書かれていることが多くて、カッコの中を空欄にするとジロジロみられたりする。なんて面倒くさいんだろう。

なんと答えても面倒くさいことを続けて聞かれるのだから、困ったものだと思う。職業なんて聞くから面倒くさくなるのだからはじめから聞かなくていいのにと思う。そういう表面的なことを聞きたいなら希望に添えるような答えをしてもいいかもしれない。そう言うのを使い分けるのも辛い。それならいっそ、自分の精神の構造を表現できるように答えたほうが、収まりが良いと気がついた。使い分けなくてもいいし、納得できるものだったら自信を持って答えられる。せっかくだからかっこいいものを選ばなくてはいけない。ダサい職業なんてゴメンだ。それに一番の職業は何かと考えた。おそらく自分は「百姓」だと思った。そうして考えれば考えるほど百姓はかっこいいものになっていった。それに「自分は百姓なんだ」と思いこんでいれば、それだけですでに百姓なのだ。

それ以来、僕は百姓になった。百姓なら、なんでもやる、できる。誰と勝負しても勝つ。だから百姓は最高にかっこいい。超ロックのつもりだ。

満員の個室便所

僕はときどき満員の便所のことを想像する。この部屋に入るとすでにすべての便器がうまっていて待たされるという状況だ。しかたなく部屋の脇の方で申し訳なさそうに空くのを待つ。申し訳ないのはむしろこっちの方だ。使えなくて待たされている方なのに、先回りして使っている人に気を使わなければならないからだ。

便所の入って、あまりにも満員であることが唐突で、部屋の隅の方で待つというところまで自分をコントロールする余裕が無い時は、所在ない気持ちを抑えるために用もないのに個室に入る。用もないから個室のドア越しに外で便器が空くのを耳を済ませて待っている。よしきた、と思って出て個室に向かおうとした瞬間に、また別の誰かが入ってきてその待ちわびた便器を占領されたとき、僕はもうどうしてもカッコ悪いのを知っているから必死に平静を装って洗面台で手を洗ったふりをして、別の階の便所に向かう。そこのところはちょっとだけ、いさぎよいと思う。

それでも、その別の階でも、便器が埋まっていたとき、またしても個室に逃げ込む。そうして、スケルトンになった建物のすべての階の便所の、男子用と女子用のすべての便所の、個室と便器が埋まっているのを想像してしまう。その建物の便所ゾーンが一階から九階までまで縦に並んでいて、まるでそれはエレベーターみたいなのだ。そしてその建物のすべての階の全ての個室のみんなは満足そうにしているのに、自分独りだけドアに身を寄せて外の様子を伺っているのだ。個室とはなんて孤独なんだ。

ほっともっと

ほっともっと Hottomotto

よく通る道にほっともっとができたのでときどきお世話になっている。コンビニと違って注文した弁当をその場で作ってくれる。つくりたてなのだからおいしそうな気がしている。それにコンビニよりも弁当の種類が多いのもいい。メニューにあるものを言えば作ってくれるのだから種類が多いのも当然か。それに注文を受けて作るから売れ残りの無駄がないのだろう。そのせいで値打ちな価格で売ってくれるのだろうか。

ただ、いつも気になることがある。注文した弁当によっては、出来上がるまでに時間がかかることだ。いや、時間を待つこと自体は何とも思わない。待つといってもせいぜい数分程度のことだ。店内の広告などを見ていれば時間なんてあっという間に過ぎる。気になるのはその待ち時間にほかにも客がいた場合だ。そんなに広くない店内で弁当の出来上がりを待つ別の客と一緒になるとうのはどうも苦手だ。弁当を買いに来た客に話しかける理由もないし、どうやり過ごしたらいいのかわからない。私がよく行くほっともっとには窓際に椅子がある。だからといってそこに座ればいいわけでもない。すでに誰かが座っている隣にまた座るというのは勇気がいるのだ。そうはいっても、立って待っているときにまた別の客がやってきたら、注文の邪魔をしているようで申し訳ない。

弁当屋だけでなくて似たことはよくある。どうしても逃げられない一か所にあかの他人と居合わせた気まずさは理解してもらえると思う。とりあえずほっともっとで、そういうときにどうするものか試行錯誤してみることにする。いい方法を見つけたら報告したい。あるいはいい方法があったら教えてほしい。